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     ナースのがんつれづれ(馬庭恭子) 
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人生は平たんではない。平均寿命まで生きて、ピンピンコロリを目標にしていたが、がんと診断され、半年間、専門病院で手術と化学療法を受けた。ケアする立場のナースが患者になった時、風景がどう見えるのか、体験をつづることにした。

   
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私のイレウス(腸閉そく) 腹ペコ日記
1日目 ≪突然の痛み〜入院≫

雨の日の夕方だった。背中が少し寒く、「冷えるな」とおもいつつ、パソコンに向かっていた。しばらくして、下腹部から、周期的にキューと痛みが出始めてきて、「う〜」と唸らざるを得ない状態に。「イレウスだ!」とすぐに思った。体を曲げながら、かかりつけ医に。

「先生、イレウスだと思います。イレウス!」という私に
「元々胆石があるから、胆石、胆石」といわれながら、腹部エコー。
「はは〜ん、小腸が閉塞をおこしている。イレウスだね。すぐ、紹介状を書きますから。」
「でしょ!」と言いたいところだが、それどころではない。痛みを和らげるため、痛み止めの注射をしてもらって、紹介状を握りしめ、紹介先の病院へ。

病院の救急外来で問診をうけ、卵巣がんの2回の手術歴を伝えた。しばらくして、若い男性医師が登場。
「最近、かわったことがありましたか?貝類など食べましたか?」という。
「食べました・・バイ貝・・」
「寄生虫の検査もしておきます」
「寄生虫??」(紹介以上にはイレウスと書いていないのだろうか??)
「点滴します、CT検査もします、造影剤も使います」



救急外来を見渡すと患者は私ひとり。
てきぱきとした看護師が、「はーい、車いすに乗ってください。」
検査が終わって、医師の前に。
「イレウスだと思います。ハイ、入院です。」



個室にひとり、スーツ姿のまま、ベットに。しばらくして、家族に取り急ぎのものを届けてもらって、着替えて、そして「患者」になった。

2日目 ≪治療≫

イレウスは絶飲食と24時間持続点滴の治療だ。やっかいなイレウス(絞扼性イレウス)は手術するようになるが、私の状態は、癒着性で、どこかの小腸が通りにくくなって、もとにもどるのを待つしかないということなのだ。それまでは、飲まず、食わず、4本の点滴が「命の水」ということになる。点滴のカロリー合計は約400キロカロリーしかない。

ぽつぽつと落ちる点滴をみながら、、かつての抗がん剤治療が思い出した。
「この一滴、一滴ががん細胞をやっつけるんだ」と念力をいれこんでいたが、いまは、念力どころが空腹感でいっぱいだ。ああ、それにしても「ひま」だ。「腹ぺこ」だ。

3日目 ≪入院して考えたこと≫

医師や看護師が病室に入ってくる度に「どうですか?」とたずね、腹部に聴診器を当ててくれる。こんな脂肪でいっぱいの腹部を人前にさらすのはしのびないが、そんなこといってはおられない。「便はでていません」「ガス(おなら)もでていません」「お腹をさわると痛いです」しか伝えられない。



なんでこうなったのかなと振り返ると。「そういえばゴボウ、レンコン・・・腸閉塞を起こしやすいといわれている根菜類を食べていたな」とか、「よくかまずに急いでかけこむように食べていたな」とか思いあたることがたくさん。

病棟の廊下は、朝ごはんの準備で私の病室の前の食パンを焼くオーブンが置かれる。しばらくすると、香ばしいパンの焼く香り「う〜ん、いい香り」おもわず、廊下も出て、息を大きくすいこんで、唾液ものみこんで、香りでいただく。

4日目 ≪不思議な気持ち≫

<腸がくるりとひっくりかえる夢>をみた。お腹のなかで地球儀がまわるようにくるりとだ。変な夢だといえばそうなのだが、潜在意識のなかで自分でどうにかしたいができないもどかしさがあったのかあと思う。

しかし、不思議なことだが、この日から、飲まず、食わずの修験僧の気分となった。「いいではないか。これも人生の学びだ。空腹は何かを教えてくれるに違いない。」などと。スイッチの切り替えがはやいのが私の特徴だ。

5日目 ≪少し痛みがやわらいだような・・・≫

寝相がわるいので、夜間の巡回があるたびに、思わず、手足を整える。

朝おきると1回のコンビニで新聞を買い、隅から隅まで読む。140円でこんなに毎日、楽しめるなんてうれしい。腸には変化なし、少し腹痛が柔らいだ感じがするが・・思い込みかもしれない。

医師が「どうですか?」と私「どうでしょう?」の掛け合い。「よいニュースをどどけられなくって・・・」治療する側もよいニュ―スをまっているに違いないし、患者もよくなっていることは伝えたいと。こういった相互関係がよい結果をもたらすのではないだろうか。

6日目 ≪ガスが・・・≫

ガス(おなら)が小さく一発。すごい、腸が動き出してきた。しばらくして、2発目。いいぞ、いい兆候。午後になるとガスとともに水様便が!

「先生、おならでました。便出ました。」「そうですか。出ましたか。」なんだか抱き合いたい気分だ。「明日から、流動食開始しましょう。」

7日目 ≪流動食≫
重湯おいしい、味噌汁おいしい(涙)有り難い!皆さま、ありがとうと言っていただく。お腹もうれしいのか「グー」と喜びの声?を発してる。


流動食

流動食

流動食
8日目 ≪無残渣食≫
全粥も卵豆腐がおいしい。豚の生姜焼き?豚の姿はみあたらない。が、食すと豚の生姜焼き!なるほど、病院食も工夫しているんだ。便も少量だが、出始めた。

流動食

無残渣食

無残渣食
9日目 ≪低残渣食≫
やっぱり、鶏肉からはじまるんだ。
薄味なんだけど、たんぱく質をいただくというかんじ。一口もむだにせず、いだだいたです。

無残渣食

低残渣食

低残渣食
10日目 ≪軟菜食≫
白菜の白和え、カボチャのそぼろ煮など。だんだん家ごはんに近づいてきたぞ。マーボー豆腐がでてきた。甘辛のあじだが、でてくるとは思わなかった献立でうれしい。

低残渣食

軟菜食

軟菜食
11日目 ≪常食≫
スゴロクでいえば、あがり!これで、普通?に戻った。帰るぞ。帰れるぞ。

便も軟便状で量も増えてきたぞ。当たり前にごはんを食べるはなんて幸せなんだ。

 「先生、約束どおり、今日で退院ですね!」私の言葉に医師がうなづいてめでたく、病院を後にすることができました。



常食

入院したときから、10日後あたりで退院と思っていた。順調にすぎていったのではないか。一連の食事の順序をスマホで記録しながら、次に起こったときの参考になるし、仲間にも伝えることができるし、よい体験だった・・・。

開腹手術をしているのでイレウスにもなることがある、つまりリスクがあるということだ。
それがすぐ起こることもあるし、何十年後におこることもあるのだということが実体験で理解できた。
私もすぐ繰り返すこともあるかもしれないし、もう、二度とおきないかもしれない、それはわからないことだ。
しかし、予防のために、日々の生活で配慮することを忘れてはいけない。

以下が注意事項
 @ 体重のコントロール(肥えてはならず)
 A 食べたいものを食べるのではなく、体によいものを食べる
 B ゆっくり噛んで食事に時間をかける
 C 自律神経のバランスを整える
 D 睡眠、休息をしっかりととる

配慮しなければならない事柄@やDは、当たり前のことなのだが、日々の生活で私はすっかり、忘れていた。
でも、これから軌道修正はできる。なにがおこるかわからないが、また、新たな知恵をいただいて、元気に生きていきます。